医師の苦悩とその症例に対してのリスク
いつから人は人の高みを遥かに目指すようになってしまったのだろう。医療が進歩し助かるのが当たり前だと思ったのは誰か。助かる命もあって助からない命もまたある。それが人の限界で、それでも助けようと必死になった人たちがいるのもまた事実だ。
それは親族であったり、医療従事者であったりさまざまだ。でもそれでもその助けたいと思う思いに気付いてもらえない事もある。むしろ逆に恨まれたりすることも。もうお忘れになっただろうか一時期救急で運ばれた妊婦がたらいまわしに病院にされて母子ともに亡くなってしまったという悲しい出来事があった。
しかし、親族は病院を相手取り裁判を起こしたが敗訴となった例だ。これは母子共に失った事に対して同情するが、敗訴になった事については仕方のない事だと思う。私は産婦人科の専門看護師ではないがあの問題になった母子の事例を見るとあまりそれらの知識に乏しい私が見ても危険だと判断できるものだった。
そして、そこに運が悪い事に診てもらえる医療機関が見つからなかった事が重なる。この症例でいうならば一般病院で見ることは難しいし、確かに担当の医師の手が空いてなかったら他の病院への搬送は仕方なかったと思う。
この妊婦の症例である前置胎盤はそく手術が適応になる症例であり、リスクもかなり大きい。この場合は胎盤の奇形として考え、対外選択肢は2つに絞られる。
それは、母体の生命を選択するか、子供の生命を選択するかである。酷な選択だが、おおよそ子供を産むことを断念させることが多いように思う。そんな酷な選択は出来ないと両方の命を選択しようとした場合、最悪な結果が待っている。前置胎盤は子宮口にあたっており、新生児よりも胎盤の方が先に排泄される可能性が高く、それゆえに後から出産される新生児に血液の供給がいかず命を落とす事が多く、また母体については、はがれ出た胎盤からの出血により出血多量に至り死に至る場合が大きい。この症例を助けようと思ったなら大きな病院の整った施設を探さなければいけない。
それを考えればこの事例について敗訴になった事はやもえないとしか言いようがない。そして、もしこの症例で仮に親族側が勝訴してしまったのならきっと今いる産婦人科医はさらに数を減らすだろう。医師はあらゆるリスクを背負いながら疾患と向き合っている。
しかし、万能ではない。その為、リスクを回避できない場合もあり、最善を尽くしても助けられない命もある事を忘れないで頂きたい。
親族にとっては怒りの向かいようがなく医療従事者や消防士達に向かったのかもしれないが誰よりもプライドを持って働いている人達だ。最善を尽くしただろう。それをどうか忘れないでいてほしいと心から思う。